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終活支援〜最初で最後の父親孝行(2)石に宿るもの [日記]

加古川市に入り、
父の生家の近くまでくると、
今日、立ち会ってくれる親戚に電話して
私たちが先に墓参りに行くことを伝えた。

お供えの花を近所で買って、
妻と二人で、先祖代々の墓所へ行った。
父が、進んで行かない場所だ。

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(MyEdit AI)

先祖代々の墓は、
最近では参る人もいないようで、
すっかり寂しくなっていた。

いつ枯れたのかもわからない花をどけて、
水を替えて、新しい花を供える。
妻が、墓の脇に置いてある線香箱を開けると、
以前と同じように、線香やライターが入っていた。
去年、伯父が亡くなって以来、
誰も使っていないらしい。
妻が、箱の中にあるものを駆使して
線香に火をつけてくれたので
香りの中で、ふたりで手を合わせた。

父は墓参りに行かない人で、
それは祖父母が亡くなった後も、
伯父が亡くなった後も変わりない。

「墓は、ただの石だ。
 人間は、死んだらいなくなる」

私が子供の頃、父は他の大人全員と
全く違うことを私に教えた。
私は天国でみんなと再会したかったので、
父の言うことは嘘だと信じたかった。

「幽霊も、存在しない。
 作り話か、幻覚だ」

そう言ってくれたのは、
怖がりの私には少しありがたかったが。

(ざっ)

と、後ろで小石を踏む音が聞こえた。
振り返ると、父がこちらに歩いてきていた。

花や線香を持って墓参りはしないが、
親族が頼めば、墓に一緒に来ることはある。
そんな人だった。

驚いた後、妻とふたりで挨拶をした。
父は、また歳を取っていた。
顔の皺が増え、体がまた少し縮んだ気がした。
当たり前のことだが、毎回ショックを受ける。

父は、私たちに簡単な挨拶をしたが、
お墓に手を合わせたりはしなかった。
ただ、私たちが備えた花を指さして言った。

「これ、あんたらが買うてきたんか」

そうだと言うと、父は短く一言、
「そうか」と言った。
不思議と、それは「良いな」という意味だと分かった。

人間は、死んだらいなくなると
かつて子供たちに教えた父。
改めて、何を教えたかったのかと考える。

父は、祖父母の晩年、仕事の合間を縫って
月一回は生家に帰っていた。
寝食を共にして、贈り物をしあっていた。
それだけ大切にしていたのに、
亡くなった後は、墓参りに行かない。

人が亡くなってしまったら、もう何もしてやれない。
墓に花を供えても、仏壇に線香をあげても、
亡くなった人が喜ぶことはない。

だから、生きているうちに喜ばせろ。
そういうことだったのではないか。

「じゃあ、行きまっか」

父は踵を返して、お墓の出口へ向かう。
これから、父の希望で、生家に残された私物を
片付ける手伝いをする。
それなら私たちは今、父が教えた通りの事をしている。

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