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終活支援〜最初で最後の父親孝行(3)ロフトの上の本の海 [日記]

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墓参りを済ませ、3人で父の生家を訪れた。

親戚が庭で出迎えてくれて、
レンタカーを誘導してくれた。
縁側の前にバックで停めて、
そこから荷物を運び出せばいい、と。

縁側から上がってすぐ横に、
父の部屋へのドアがあって、
ドアをくぐると、正面に階段がある。
子供の頃、急な階段だと思っていたが、
今見てもかなり急な階段だ。

階段に向かって左手は収納庫の入り口で、
昔は祖父母の衣装部屋だったと記憶している。
服でいっぱいだったのが、今はすっきりしていた。

子供の頃、急な階段をこわごわ登って、
父の部屋に着くと、そこは本の海だった。
部屋に入って正面にある壁が、
すべて本で埋め尽くされていた。

その後、何年もかけて、本は減っていったが
まだまだ相当な数が残っている。

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(昔は、窓の上にも下にも手製の本棚があった)

たっぷり本棚2杯分の本を、
持ってきた段ボールを組み立て、詰めていく。
要らない本もあるらしいが、
選別している時間はない。

それにしても、すごい量だ。
私が本棚から数冊ずつ取り、
妻に渡して、段ボールに詰めてもらう。
どんどん箱に詰めていくが、本棚の本は減らない。

(こんなに本を読むなんて、
 お父さんは偉いんだ)

子供の頃、この部屋に泊まりにくるたびに
そう感じていた。
図書室でも見たことのない本が
壁一面にぎっしり詰まっていて、
タイトルを見ても、内容が想像できない。
例えば『純粋理性批判』のように。
そう言う本ばかりが詰まった本棚は、未知の海だった。

私が遊び疲れて床に着くと、
父も隣で布団に入って、
部屋の電気を消して、読書灯を付けた。
そして、本棚から1冊取って、読み始める。
その横顔を見ながら眠った。

今、私たちが箱に詰めている本は、
そうやって読んで面白かった本もあれば、
まだ読んでいない本もあるのだろう。
ブックオフやネット書店などなかった時代、
これだけの本を集めるのに、
いったいどれくらいの時間とお金と労力をかけたのだろう。
箱に入れていく本の重みが、そう気づかせてくれる。

やがて、本棚は空になった。

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他にも布団やタオル、
例の読書灯などがあったが、
不用品として処分してもらうことになった。

これでもう、私も父も、
この部屋を訪れることはないだろう。

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本の詰まった段ボール箱を持って
急階段を降りるのは大変だった。
妻にも父にもやらせたくないので、
全部自分で縁側まで運んだ。

腰がそろそろ限界に近いと感じていたら、
そこからは妻と親戚が車に載せるのを手伝ってくれた。
急に言い出して色々と迷惑をかけているのに、
ありがたい限りだ。

残した不用品の処分に費用がかかるだろうから、
私に請求してもらうように伝えると、
それはいいが、碁盤を持って帰ってほしいと言われた。
祖父と父が対面に座って、時を過ごしていた碁盤は、
さすがに処分する気になれないようだ。

今後のことについては、
私は直接聞いていないが、
墓じまいをしたいらしい。

「後のことは、あの人たちが
 自分たちで決めたらええ」

父のその言葉が、生家との最後の別れを意味していた。
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(イラスト:My Edit AI)
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