善人＝ふだんは透明

仕事の後、散歩も兼ねて買い物に行った。

あるところで、ドアを開けて階段を降りていくと、
前から白杖を使って歩いてくる人がいた。

視覚障害者も、そうでない私のような人も、
だいたい毎日、同じ道を歩いているはず。
であれば、この階段の上にドアがあるのも
知っているはずだ。

そうは思ったが、気になるので
階段の途中で立ち止まった。
白杖の人は、私とすれ違い、
階段を登ってドアに近づいていく。
私は、問題がないか気になったので、
振り返ってじっと見ていた。

すると、もう一人、
若い男の人が、階段の下から素早く登ってきて、
白杖の人に追いついて、言った。

「ドア開けますよ」

そしてドアを開けた。

「ありがとうね」

と白杖の人は言って、
ドアをくぐっていった。

昔からずっと思っている事がある。
良い人は、目立たない。
悪い人は、目立つ。

例えば犯罪者はニュースになり、
SNSで話題になり、顔や名前を覚えられる。
事件の内容によっては、何年も何十年も
語り継がれるようなことにもなる。

犯罪者でなくても、素行の悪い人や
迷惑行為をする人などは、記憶に強く残る。

だが、世の中には善人の方が多い。
普段気づかないだけで、心根の優しい人が大勢いる。
だからこそこの国では、わりと安心して暮らしていける。

そのことをまた思い出し、ほっと一息ついた。